- Tomita Akihiro
滑膜性骨軟骨種症との格闘その3
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アメリカでの再発と病院の予約
日本で2度目の手術を終えてしばらくした後、2年間の予定で社会人留学のため渡米しました。
渡米前は膝の調子もよく、定期的にストレッチには通いながら、痛みに悩まされることもない日々を送っていました。
渡米後も半年ほどは何の問題もなかったのですが、冬場になると少し気になり始め、ある夜に軽いロッキングを起こしてしまいました。
再発したのかな、と嫌な気分になりながら、本格的にロッキングしてしまう前に対処しようと、病院に行くことを決意しました。
急いで日本にいた家族に、日本で手術をした病院での手術記録を取り寄せてもらいました。ただ日本の病院には英訳することはできない、と言われたため、英訳は自分で行いました。
アメリカでは日本ほど病院に気軽に行かないので、勝手がわからなかった私は、通っていた大学の相談窓口に(英語で)電話をして、適切な診療科を紹介してもらおうとしましたが、これにとても苦労しました。
一度、予約が取れたと思って大学病院に行くと、「あなたの予約は昨日キャンセルされている」と追い返されました。膝の専門医ではなく、なぜか脊椎の専門医の予約になっていたらしく、こちらに一言も言わずに勝手にキャンセルされていました。
アメリカではこういう雑な扱いは日常的でしたが、気後れせず自分の主張を続けることが大事とわかっていたので、改めて電話をして、苦情を言いつつ、正しく予約を取りました。
アメリカでの手術体験と日本との違い
気を取り直して整形外科の診察に行くと、まずはレントゲンを撮りました。レントゲンに軟骨種が映っており、これは手術しないと取れないです、とその場で伝えられ、手術をすることを決意しました。
ちなみに、アメリカの病院(連邦政府の援助を受けている病院に限る)では、誰であっても、医療通訳を無料で付けることができます。私も医療の専門用語には自信がなかったので、念のためつけてもらいました(アメリカ育ちの日本人の方でした)。
日本との違いは、診察する医師と手術する医師が異なる点です。診察を担当した医師から、手術するならこの電話番号に電話して、手術の予約を取ってください、と伝えられました。
手術の予約の電話は非常にスムーズでした。日本との違いは、アメリカは国民皆保険ではないので、一人一人手術費用が異なることです。
私の場合も電話口で、あなたの保険だと約2000ドルの自己負担だが大丈夫か、と念入りに聞かれました。あとでわかったのですが、無保険の場合は日本円にして200-300万円ぐらいかかるようでした。
手術の予約を取ると、次は執刀医による診察です。
日本と違うと思った点は、まずは執刀医が握手をしながら自己紹介をしてくることでした。このあたりは文化的な違いだと思いますが、医師との距離が近いと感じました。
さらに手術の細かい内容をこちらがわかるまで徹底的に教えてくれるところでした。日本は国民皆保険で、全国どこにいても同じ値段で標準化された医療を受けることができますが、アメリカはそうではないので、「自分たちは信頼に足る医療機関である」ことをアピールしているようにも感じました。
手術当日は緊張しながら向かいました。アメリカでの関節鏡手術は、日本と異なり、基本的に日帰りです。入院は精神的にストレスなので、私は日帰りのほうが良いなと思います。
当日に感じたことは、アメリカは痛みを悪だと思っているということです。日本だと多少の痛みは仕方ないこととして我慢する人が多いと思いますが、アメリカは痛みを如何に抑えるかを重視していました。
例えば点滴の針を打つ時も、日本だと「チクッと痛みます」と言われると思いますが、アメリカは「痛くないようにまず皮膚に麻酔を打ちます」と言われ、確かに痛みはありませんでした。
手術自体は、思ったほど再発度合いがひどくなかったので、問題なく終わりました(全身麻酔されるので私にとっては一瞬。)
手術後も「どれぐらい痛むか」を丁寧に聞かれました。また、夜眠れないと回復に支障をきたすと、日本ではほぼ処方されないオピオイド系(いわゆる麻薬)の強めの痛み止めをもらいました。術後1-2日はこの痛み止めを使いましたが、確かに効果は抜群でした。
術後のリハビリの違い
手術が終わると、明日から早速自宅でセルフケアしてください、1週間後からリハビリセンターで週二回リハビリ(英語ではPhysical Therapy)を受けてくださいと言われ、リハビリ・セルフケアの内容が書かれた資料を渡されました。
日本との違いは、日本では自宅でのセルフケアはそこまでたくさん言われませんでしたが、アメリカは5種類以上毎日やるよう指示されました。医師からもセルフケアが大事だと念押しされ、早速翌日から取り組みました。
また通院してのリハビリ(Physical Therapy)も異なっています。日本だと一人の理学療法士さんがほぼつきっきりで、ストレッチ系が多い印象でした。
一方のアメリカでは筋トレ系が多く、リハビリセンターにたくさんマシンが置いてあって、マシンの使い方を説明してくれた後は自分で行います。終わると、次は何かと担当の理学療法士に聞いて、次のマシンを教わるという仕組みでした。
医師はアメリカのほうが距離が近いと思いましたが、理学療法士は日本のほうが患者との距離が近いと思いました。
他に印象的だったのは、アメリカでは患部冷却用のクーラーマシンをもらえたことです。日本だと入院中だけ使えたものです。手術料の一部だと思います。とにかくこれで患部を冷やせと言われました。
術後の経過
全体的には順調でしたが、手術部位が一部膿んでしまい、抗生物質もらいに行くこともありました。日本だと予防的に抗生物質を飲んでいた記憶がありますが、アメリカは抗生物質をなるべく処方しないようです。
また、執刀医に今後の見立てを相談すると、軟骨種の再発可能性は低いが、3回も手術をしているのである程度の後遺症というか、手術前に完全に戻ることは難しいとも伝えられました。
2か月程度のリハビリ期間が終わると、たまに患部が熱を持つことはありましたが、日常生活には支障がないレベルまで回復し、痛みにも煩わされない日々を取り戻せました。
この後は無事に日本に帰国しました。帰国後しばらくは快調でしたが、コロナが始まったころに、これまでとは違う痛みで膝の調子を崩してしまいました。
そこからの回復の過程でセルフケアの重要性を確信し、KneeNoteの開発に至っています。この辺りの経緯は、こちらもご覧ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。